2012.7.12 ファナック

工作機械の頭脳となる数値制御(NC)装置で世界シェア6割を握るファナック。
富士山のふもと、山梨県忍野村に本社を置く同社は有価証券報告書の
事業リスクの項目に「富士山噴火」を挙げる。よほどの天変地異でも起きない
限り、この地を、そして日本を離れるつもりはない。
150万m2もの敷地に点在する研究所の扉にはこんな言葉が記されている。
「Weniger Teile(ベニガー・タイレ)」。ドイツ語で「部品点数の削減」を意味
する。「少ない部品でつくればコストが下がり、信頼性は上がる」。
実質的な創業者で名誉会長の稲葉清右衛門はこの言葉にもの作りの基本方針を
込める。
清右衛門は「ありきたりの設計を製造段階で改善しようとしてもどだい無理」と
言い切る。円高を乗り切るためにも、多くの日本企業が工場でのコスト削減に
血道をあげる。
対するファナックの発想は「利益は開発時点で決まり、製造段階では
生まれない」
ありきたりでない製品をどう生み出せるのか。決めるのはまず価格だ。
内外約200ヵ所に置いた保守サービス拠点を通じて市場の変化や顧客の要望を
吸い上げ、競合他社に負けない価格を探る。価格から一定の利益を引いて
製造原価を算出する。この原価に収めるのが設計の絶対条件。原価に利益を
上乗せし価格を決める手法の逆を行く。
・・・
清右衛門の長男で社長の稲葉善治は「1ヵ所でつくるのが一番いい」と強調する。
国内工場は自動化が究極まで進み、少ない部品による設計が生産性を高める。
なにより「研究者がすぐに製造現場に行ける。現場から得るものは多い」と
善治はいう。
・・・
解はやはり研究開発の強化だ。
世界で成長を目指す日本企業は国内で付加価値の低い製品の開発、生産を続け
られない。日本だからできる研究開発を突き詰めれば、生産現場の強さが
生きてくる。ファナックは将来、研究者の数を従業員の半分に引き上げる
腹づもりだ。現預金は年間売上高を上回る5,300億円。成長に投じる資金はある。
ファナックは特殊例なのか。日本企業には長年にわたる技術開発の蓄積があり、
手元資金もため込んでいる。国内でのもの作り宣言するファナックの姿は
むしろ日本企業の一つの可能性を示す。
次々と世界に飛び出す日本企業。
だが、日本に足場を置き、ここで育ったからこそ得られる経営資源は多い。
技術や人材、市場。どう使いこなすかが、世界で戦う条件となる。

グラスと水

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