お気に入りの本で好きな一説【燃えよ剣】

「兵書を読むと、ふじぎに心がおりついてくる。おれは文字には明るくねえが、
それでも論語、孟子、十八史略、日本外史などは一通りはおそわってきた。
しかしああいうものをなまじいすると、つい自分の信念を自分で岡目八目流に
じろじろ看視するようになって、越のぐらついた人間ができるとおれは悟った。

そこへ行くと孫子、呉子といった兵書はいい。書いてあることは、
敵を打ち破る、それだけが唯一の目的だ。総司、これを見ろ」

と、ぎらりと剣をぬいた。

和泉守兼定、二尺八寸。すでに何人の人間を斬ったか、数もおぼえていない。

「これは刀だ」

といった。
歳三の口ぶりは熱っぽさは、相手は沖田を見ていない。
自分にいいきかせているような様子であった。

「総司、見てくれ。これは刀である」

「刀ですね」

仕方なく、微笑した。

「刀とは、工匠が、人を斬る目的のためにのみ作ったものだ。
刀の性分、目的というのは、単純明快なものだ。
兵書とおなじく、敵を破る、という思想だけのものである」

「はぁ」

「しかし見ろ、この単純の美しさを。刀は、刀は美人よりもうつくしい。
美人は見ていても心はひきしまらぬが、刀のうつくしさは、粛然として
男子の鉄腸をひきしめる。目的は単純であるべきである。
思想は単純であるべきである。新選組は節義にのみ生きるべきである」

司馬遼太郎の【燃えよ剣】の中にでてくる、新選組、土方歳三と沖田総司の会話。
この一節が好きで、昔、何度も読んでいた。

今月は少し、読書の月にしよう。

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